ふらりと吉祥寺を歩いていて、ふと目に飛び込んでくる不思議なテント。赤と白のストライプ、入り口にちょこんと座ったクマのぬいぐるみ。ここ、カフェでもサーカス小屋でもないんです。絵本専門の古書店「MAIN TENT」です。
「絵本屋さんなんて、子どもだけでしょ?」なんて思ったなら、その考え、今日でガラリと変わるかもしれません。ここは、大人が本気で夢中になれる、ちょっと変わった本屋なんですよ。
MAIN TENTってどんな場所?吉祥寺の路地に現れたサーカス小屋
JR吉祥寺駅から徒歩5分ほど。吉祥寺通りをちょっと入った路地に、MAIN TENTはひっそりと佇んでいます。目印は、やっぱりあのサーカステント風の外観。店名の「MAIN TENT」は、サーカスで一番大きな主テントのこと。そしてよく見ると、「entertainment(エンターテインメント)」の文字を並べ替えたアナグラムにもなっているんです。
店主の冨樫チトさんは、ダンサーでありイラストレーターでもあるクリエイター。「美しいだけじゃなくて、ちょっと不気味だったり、不思議だったり。すべてが綺麗じゃないところがサーカスの魅力なんです」と語る冨樫さん。その世界観は、店内の隅々にまで行き渡っています。
天井から吊り下げられたカラフルな装飾、壁に描かれたイラスト、ところどころに隠れた小さな仕掛け。入った瞬間から、日常をスッと抜け出したような気分になれる空間です。
約5,000冊の絵本がずらり。ここでしか出会えない“特別な一冊”がある理由
MAIN TENTに足を踏み入れると、壁一面にびっしりと並んだ絵本たちが目に飛び込んできます。その数、なんと約5,000冊。新刊も扱っていますが、中心となるのは古書です。
「絵本の古書って、ちょっとハードルが高いのかなって思われるかもしれません」でも、だからこそ面白いんですよね。
たとえば、あなたが子どもの頃に大好きだった絵本。タイトルも作者も忘れてしまったけれど、あのときめきだけは覚えている。そんな“思い出の一冊”が、この棚のどこかにひっそりと眠っていたりするんです。
しかもMAIN TENTの品揃え、ちょっと他とは違います。店主の冨樫さんが自ら海外へ足を運んで買い付けた、チェコやハンガリーといった東欧の絵本が充実しているんですよ。アートピースのような美しい装丁、日本ではなかなかお目にかかれない独特のタッチ。子どもはもちろん、大人の心にもぐっと刺さる絵本がきっと見つかります。
あいまいな記憶から絵本を探す「怪盗Think Twice」って?
「子どもの頃に読んだ絵本を、もう一度読みたい」
そう思っても、タイトルがわからなければ探しようがないですよね。ネットで検索しようにも、「うさぎが出てきて、森で、たしか赤い屋根の家が…」なんて情報ではAIもお手上げです。
でもMAIN TENTには、「怪盗Think Twice」という心強い味方がいます。
これは、店主の冨樫さんによる“思い出の絵本探しサービス”。あなたが覚えている断片的な記憶――主人公の服装、表紙の色、ストーリーの一場面、本のサイズ感など――を伝えると、冨樫さんが膨大な知識とネットワークを駆使してその一冊を見つけ出してくれるんです。
「え、それだけで見つかるの?」と驚くかもしれませんが、これが結構な確率でヒットするのだとか。SNS上でも「子どもの頃に読んだ本が見つかった」「母に読んでもらったあの絵本にもう一度会えた」といった感謝の声がたくさん届いています。
“あなただけの思い出の一冊”を探す、まるで探偵のようなわくわく感。これこそMAIN TENTでしか味わえない体験です。
子ども用レジに一日店長!子どもが主役になれる仕掛けがすごい
MAIN TENTのもうひとつの魅力。それは、子どもが「自分でできた!」を体験できる仕掛けがたくさんあることです。
まず目を引くのが、カウンターにある小さな子ども用レジ。絵本を買うとき、子どもが自分でそのレジに本を差し込むんです。すると、カウンターの向こう側にいる店主さんがそっと受け取ってくれる。これ、大人からすると「ただそれだけ?」かもしれませんが、子どもにとっては大冒険です。
「自分で選んだ本を、自分の手で店員さんに渡せた」という小さな達成感。あの誇らしげな表情を見ると、こっちまで嬉しくなりますよね。
さらにMAIN TENTでは、夏休みなどに「一日店長」というイベントも開催しています。子どもたちが実際に値付けをしたり、おすすめのポップを作ったり、接客まで体験できるんです。「お金のやりとりをする」「自分の言葉で本を紹介する」――本気の商売体験が、子どもたちの自信や表現力を育んでいきます。
ビートボックスに合わせて読み聞かせ?大人がむしろ前のめりになるイベント
さて、ここまで読んで「でもやっぱり絵本は子どものものじゃ…」とまだ思っているあなたに、ぜひ知ってほしいのがMAIN TENTの読み聞かせイベントです。
店主の冨樫さんがヒューマンビートボックス奏者と組んだユニット「カーテンアケロ」。その名の通り、カーテンを開けるように新しい世界へ誘う二人が披露する読み聞かせは、もはやライブパフォーマンスです。
絵本の世界観に合わせて、ビートボックスでリズムを刻み、声に抑揚をつけ、ときに歌い、ときに踊る。静かにページをめくるだけの読み聞かせとは、まったく別物です。
「絵本の読み聞かせってファンキーなんだ!」と目から鱗。実際、このイベントには大人だけで参加する人も多いんですよ。気になる開催情報は、MAIN TENTのSNSをチェックしてみてください。
「絵本はマトリョーシカのようなもの」店主が語る、心に響く絵本論
MAIN TENTが多くの大人の心を掴んで離さないのは、空間や品揃えだけではありません。店主・冨樫チトさんの“絵本観”そのものが、訪れる人の胸に深く刺さるからです。
冨樫さんは言います。「絵本はマトリョーシカ人形の内側のようなもの」だと。
表面に見えているストーリーの奥に、また別の意味や感情が隠れている。子どもの頃は気づかなかったけれど、大人になってから読み返すと、まったく違う物語が見えてくる。
たしかに、子どもの頃は単純に「面白いな」で終わっていた絵本が、いま読むと親子の愛の深さや、誰かを想う切なさに気づかされることってありますよね。
「絵本は未来への種まき」。この言葉も、冨樫さんの大切な哲学です。子どものときに読んだ絵本は、記憶のなかでずっと育ち続けて、大人になったときにふと花を咲かせる。だからMAIN TENTでは、出会いを急がせない。じっくりと、一冊の絵本と向き合える時間を大切にしているんです。
吉祥寺でMAIN TENTをもっと楽しむための豆知識
せっかく訪れるなら、こんなポイントを押さえておくとMAIN TENTをもっと楽しめますよ。
- 子どもと一緒なら子ども用レジを体験させてあげて – 本を差し込む時のワクワク感は、きっと忘れられない思い出になります。レジの前でカメラを構えて待つのもアリですよ。
- 大人ひとりでもまったく浮かない – 意外かもしれませんが、平日の昼間にふらっと立ち寄る大人も多いんです。絵本のアート性に惹かれて訪れる人、思い出の一冊を探している人、ただ静かな空間で本を眺めたい人。どんな理由でも大歓迎の空気があります。
- 「怪盗Think Twice」は事前準備がカギ – 思い出の絵本を探してほしいなら、覚えていることをできるだけメモしていきましょう。どんな動物が出てきたか、色のイメージ、本の大きさ、読んでもらった場所や状況。些細な情報が、大きな手がかりになります。
- イベント情報はSNSでチェック – 読み聞かせイベントや一日店長など、不定期開催のイベントはSNSで告知されます。訪れる前に一度、公式InstagramやXをのぞいてみてください。
- 駅からの散歩を楽しむつもりで – 吉祥寺の街歩きのついでに立ち寄るのがベスト。井の頭公園で自然を感じて、アーケード商店街で食べ歩きを楽しんで、そして路地をちょっと入ったMAIN TENTでほっと一息。そんな過ごし方が、きっとあなたの吉祥寺時間を豊かにしてくれます。
吉祥寺「MAIN TENT」で、絵本との新しい出会いを
絵本は子どものもの。
そう思っていた大人の心を、いとも簡単に解きほぐしてしまう場所。それが吉祥寺のMAIN TENTです。
ふとした瞬間に甦る、あの絵本の記憶。子育てに追われるなかで忘れかけていた、ページをめくる高揚感。ただ純粋に、美しい絵を眺めて心を震わせる時間。
どれも大人になった今だからこそ、味わえる感覚だと思います。
吉祥寺に来たら、ちょっと路地を覗いてみてください。赤いテントが、あなたの訪れを静かに待っています。あのカウンターの向こうで、今日も冨樫さんがにっこり笑って、「いらっしゃい」と声をかけてくれますよ。


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