パタゴニアが産声を上げてから50年。登山用ピトンの製造から始まった小さな会社が、今や世界中で愛されるアウトドアブランドへと成長しました。しかし、パタゴニアが歩んできた道は、単なるビジネスの成功物語ではありません。
2023年に節目を迎えた「パタゴニア 50周年」というキーワードの裏側には、私たちがこれからどう生きていくべきかという、ブランドからの強いメッセージが込められています。今回は、アニバーサリーを象徴する限定コレクションの魅力や、創業以来変わらない哲学、そして未来への展望を詳しく紐解いていきましょう。
50周年を象徴する「ナチュラル・アイコン」コレクションの衝撃
パタゴニアが50周年の節目に発表した「ナチュラル・アイコン」は、ファンにとって単なる記念品以上の意味を持つコレクションとなりました。その最大の特徴は、パタゴニアの歴史を形作ってきた名作たちを「天然繊維」で再構築した点にあります。
これまでのアウトドアウェアは、軽さや速乾性を追求するために石油由来の合成繊維に頼ることが一般的でした。しかし、パタゴニアはあえて「天然素材への回帰」を選んだのです。
天然素材で蘇る名作たち
今回のコレクションで特に注目を集めたのが、パタゴニア ナチュラル・ブレンド・レトロ・カーディガンです。パタゴニアの代名詞とも言えるフリースですが、この記念モデルにはリサイクル・ポリエステルに加え、リサイクル・ウールが混紡されています。化学繊維特有の光沢が抑えられ、どこか懐かしく温かみのある質感が、往年のファンから新しい世代までを虜にしました。
また、パタゴニア ナチュラル・ブレンド・スナップTも見逃せません。1985年の登場以来、フリースの常識を変えたスナップTが、ウールやコットンを含む素材でアップデートされました。肌触りの良さと吸湿性を兼ね備え、キャンプファイアの火の粉にも少しだけ強いという、天然素材ならではの利点が加わっています。
さらに、植物由来のワックスを使用したパタゴニア ワックスド・コットン・ジャケットは、使い込むほどに風合いが増す一着です。パラフィン不使用のワックスを採用することで、環境負荷を最小限に抑えつつ、防水性と耐久性を確保しています。
「地球が唯一の株主」という驚きの決断と50周年の関係
パタゴニアの50周年を語る上で避けて通れないのが、2022年末に発表された所有権の譲渡です。創業者イヴォン・シュイナードとその家族は、数千億円規模とも言われる会社の全株式を、環境保護団体と信託へ譲渡しました。
「地球が私たちの唯一の株主」という言葉は、世界中に衝撃を与えました。これは、会社の利益をすべて環境危機の解決や自然保護のために使うという宣言です。50周年という大きな節目を前に、パタゴニアは自らを「成長を追い求める企業」から「地球を救うための道具」へと完全に進化させたのです。
この背景には、創業以来の「クリーンクライミング」の精神が流れています。岩肌を傷つけない登山用具を作ったときから、彼らの目的は一貫しています。自分たちが愛する自然を守るために、ビジネスを利用する。その姿勢が、この50周年というタイミングで究極の形となりました。
50年の歴史を支えた革新的なイノベーション
パタゴニアの50年は、アウトドア業界の常識を覆し続けた歴史でもあります。今では当たり前となっている概念の多くが、実はパタゴニアから始まっています。
- フリースの発明: 1970年代後半、北大西洋の漁師が着ていたパイルセーターからヒントを得て、モルデン・ミルズ社(現ポーラテック社)と共同で開発したのがフリースの原点です。
- レイヤリングの提唱: ベースレイヤー、ミッドレイヤー、アウターという重ね着の概念を普及させ、過酷な環境下での安全性を飛躍的に高めました。
- リサイクル・ポリエステルの採用: 1993年、飲料ペットボトルからフリースを作るという、当時としては画期的なリサイクル製品の製造を開始しました。
- 1% for the Planet: 1985年から、売上の1%を環境保護団体に寄付し続けています。たとえ経営が苦しい時期であっても、この約束は守られてきました。
これらの歩みはすべて、50周年記念モデルのタグに刻まれた「ヘリテージ・ロゴ」に凝縮されています。山脈を背景にしたお馴染みのロゴが、このコレクションでは特別に古いデザインで復刻されており、歴史の重みを感じさせてくれます。
次の50年へ向けた「リッジ・トゥ・リーフ」の視点
パタゴニアは50周年を過去の祝典ではなく、未来へのスタートラインと位置づけています。そこで掲げられたのが「What’s Next?(次は何か?)」という問いかけです。
現在、彼らが注力しているのは「リッジ・トゥ・リーフ(嶺から礁まで)」という考え方です。山の頂上から海辺に至るまで、自然のサイクルはすべて繋がっています。山を守ることは、川を清らかにし、豊かな海を育むことに直結します。
オーシャンズへの進化と水資源の保護
2025年以降、パタゴニアは「サーフ」というカテゴリーを「オーシャンズ」へと拡大させました。これは単に波乗りを楽しむだけでなく、海洋生態系全体を守る活動にシフトすることを意味しています。
マイクロプラスチック問題への対策として、化学繊維の抜け落ちを抑える研究を進める一方で、前述した「ナチュラル・アイコン」のように、そもそもプラスチックに頼らないモノづくりを模索しています。また、健全な水資源を守る「ヘルシー・ウォーターズ」プロジェクトを始動させ、ダムの撤去や河川の再生にも力を入れています。
農業が地球を救う「リジェネラティブ・オーガニック」
パタゴニアは現在、アパレル企業でありながら、食品事業(パタゴニア プロビジョンズ)にも深く関わっています。その理由は、現代の農業が気候変動に大きな影響を与えているからです。
彼らが推進する「リジェネラティブ・オーガニック(環境再生型有機農業)」は、土壌を健康にし、大気中の炭素を地面に閉じ込める農法です。この農法で育てられたコットンを使用することは、服を着ることが地球環境を改善することに繋がるという、新しい消費の形を提示しています。
50周年モデルを手に取るということ
もしあなたが、パタゴニア 50周年モデルを手に取ろうとしているなら、それは単に流行の服を買う以上の価値があります。
限定モデルは確かにデザインも素晴らしく、所有欲を満たしてくれるでしょう。しかし、パタゴニアが最も望んでいるのは、その一着を「一生もの」として使い続けてもらうことです。彼らは「Don’t Buy This Jacket(このジャケットを買わないで)」という広告を出したことでも有名ですが、それは「本当に必要なものだけを選び、買った以上は修理して長く使ってほしい」というメッセージでした。
50周年モデルの多くは、耐久性が高く、リペア(修理)がしやすい構造になっています。擦り切れたら直し、穴が空いたらパッチを当てる。そうして刻まれた傷跡こそが、あなたと地球との関わりの記録になります。
パタゴニア50周年の限定モデルと歴史を解説!次の50年へ繋ぐ「地球」への想い
パタゴニアの50周年は、私たちに「ビジネスのあり方」と「消費の責任」を問いかけています。
かつて、創業者のイヴォン・シュイナードは「死んだ惑星の上ではビジネスはできない」と言いました。この50年間、パタゴニアは時に常識外れと言われながらも、常に地球を最優先に考え、製品を開発し、システムを変えてきました。
今回ご紹介した「ナチュラル・アイコン」コレクションの製品たちは、その50年の英知が詰まった結晶です。化学繊維から天然素材へ、そして「地球が株主」という新たなフェーズへ。パタゴニアの挑戦は、まだ始まったばかりです。
私たちは、一人の消費者として何ができるでしょうか。
それは、彼らが作ったこだわりの製品を大切に使い倒すことかもしれません。あるいは、彼らの活動を通じて、自分のライフスタイルを見つめ直すことかもしれません。
パタゴニアが切り拓く「次の50年」は、私たち一人ひとりの選択にかかっています。まずは、その想いが込められた50周年記念のアイテムに触れ、ブランドの哲学を肌で感じてみてはいかがでしょうか。そこにはきっと、これからの時代を生き抜くためのヒントが隠されているはずです。

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