「旅に持っていく服は、一着でいい」
そう言われて、あなたは何を思い浮かべますか? 多くの服好き、そして旅を愛する人々がその「正解」として真っ先に挙げるのが、クリエイティブディレクター・野村訓市氏が手がけたTHE NORTH FACEの別注アイテムです。
世界中を飛び回り、あらゆるカルチャーの現場に立ち会ってきた野村氏。彼が作る服には、単なる「流行」とは一線を画す、圧倒的な説得力が宿っています。
今回は、数あるコラボレーションの中でも伝説的といわれるオーバーコートを中心に、なぜこれほどまでに人々を惹きつけるのか、その魅力と着こなしを徹底的に深掘りしていきます。
野村訓市がザ・ノース・フェイスに求めた「究極の道具」としての機能
野村訓市という人物を語る上で欠かせないのが、90年代から続く膨大なバックパッカーとしての経験です。彼はかつて、世界中を旅していた若かりし頃、THE NORTH FACEの製品が高価で手が出せなかったといいます。だからこそ、当時の彼はカタログを隅々まで読み込み、どのギアが過酷な環境に耐えうるのかを徹底的に調べ上げました。
そんな彼がブランドとタッグを組んで形にしたのが、2022年に登場した「GORE-TEX Over Coat」です。このコートには、単なるファッションブランドの別注品にはない「道具」としての執念が詰め込まれています。
彼が求めたのは、ドレスコードのあるレストランから、雨の降りしきる異国の路地裏、さらには飛行機の中での防寒まで、すべてを一着で完結させること。まさに「旅の正解」を形にした一着なのです。
ベースとなったのは、ミリタリーウェアの傑作である「M-65」フィッシュテールパーカ。そこにトレンチコートのような襟のディティールを加え、アウトドア特有の「ギア感」を程よく中和させています。この絶妙なバランスこそが、野村訓市氏にしか出せないセンスの正体といえるでしょう。
GORE-TEX素材がもたらす圧倒的な安心感と利便性
この別注コートの最大の武器は、言わずと知れたGORE-TEXを採用している点です。しかし、ただのゴアテックスではありません。3層構造の「GORE-TEX PRODUCTS」を使用しており、表地にはタフなナイロン、裏地には衣服内の湿気を速やかに逃がすマイクログリッドバッカーを組み合わせています。
これによって何が起きるか。まず、どんな土砂降りでも身体を濡らすことはありません。そして、満員電車や湿度の高い室内でも蒸れることなく、常にドライな着心地をキープしてくれます。
さらに特筆すべきは、共生地で作られたハットが付属している点です。野村氏は「傘を差すのが嫌い」という自身のスタイルを投影し、雨が降ればハットを被り、コートの襟を立てるだけで完結するように設計しました。このハットは、コートの内側に配置された大型のメッシュポケットに収納可能です。
「手ぶらで歩ける」
これは旅において、そして都市生活においても最大の贅沢です。スマートフォン、財布、パスポート、そして折り畳んだハット。それらすべてをポケットに放り込み、軽快に街へ繰り出す。その自由さこそが、このアイテムが支持される理由です。
街でも旅先でも。シーンを選ばない圧倒的なシルエットの妙
このコートを手にした人がまず驚くのが、その「大きさ」です。驚くほどゆったりとしたオーバーサイズシルエットは、決して今のトレンドに乗っかっただけのものではありません。
野村氏がこのサイズ感にこだわった理由は、レイヤリング(重ね着)にあります。
例えば、真冬のニューヨーク。中にはヌプシジャケットのような肉厚なダウンジャケットを仕込むことができます。
あるいは、急な冠婚葬祭や仕事の打ち合わせ。カチッとしたセットアップスーツの上から羽織っても、シルエットが崩れることなく、裾もしっかりと隠れます。
この「何でも飲み込むサイズ感」があるからこそ、インナーを調整するだけで春・秋・冬の3シーズンをこれ一着で過ごせるのです。
カラーリングにも彼のこだわりが光ります。定番のブラックではなく、絶妙な「アスファルトグレー」などをラインナップすることで、都会のコンクリートにも、自然の風景にも馴染むように計算されています。アウトドアブランド特有の派手さを抑えたカラーパレットは、大人のワードローブにすんなりと溶け込みます。
野村訓市流の着こなし術。カジュアルとフォーマルの境界線を楽しむ
さて、この稀代のマスターピースをどう着こなすべきか。野村訓市氏自身のスタイルを参考に、いくつかのパターンを考えてみましょう。
まずは、最も彼らしい「ストリート×ラグジュアリー」なスタイル。
ボトムスには少し緩めのディッキーズ 874を合わせ、足元は履き古したVANSのスリッポン。インナーにはシンプルな白Tシャツやスウェットを合わせるだけで、このコートの持つ風格が全体を格上げしてくれます。
次に、ビジネスやフォーマルなシーン。
驚くべきことに、このコートは革靴とも相性が抜群です。襟を少し立てて、ボタンを無造作に留める。ゴアテックス特有のマットな質感が、ウール素材のパンツやシャツと美しいコントラストを生みます。
そして、忘れてはならないのが「旅先でのリラックススタイル」です。
長時間の移動を考慮して、インナーにはパタゴニアのフリースや、着心地の良いパーカーを。機内ではコートを膝掛け代わりに使い、現地に着いたらそのまま雨の中へ。
どのスタイルにも共通するのは、「頑張りすぎない」こと。機能に裏打ちされた本物だからこそ、適当に羽織るだけで様になる。それこそが、野村訓市氏が提唱する「コンフォート(快適さ)」の真髄なのです。
時代を超えて愛される、アーカイブとしての価値
ファッションのサイクルは年々早まっています。しかし、THE NORTH FACEと野村訓市氏のコラボレーションアイテムは、リリースから時間が経ってもその価値が衰えるどころか、ますます高まっています。
それは、このコートが「消費される流行」ではなく「使い込まれる道具」として作られたからです。
ゴアテックスのメンブレンが寿命を迎えるまで、あるいは生地が擦り切れるまで着倒す。傷がついたり、汚れがついたりしても、それが「旅の記憶」として刻まれていく。そんな愛着を持てる一着は、そう多くありません。
現在、この別注コートは中古市場でも非常に高い人気を誇っていますが、もし運良く出会うことがあれば、それは一生モノの相棒を手に入れるチャンスかもしれません。
また、野村氏は自身のラジオ番組やSNS、そして監修を務めるアプリなどを通じて、「良いものを長く使うこと」の大切さを説いています。一着のコートをボロボロになるまで着る。その姿勢こそが、今の時代における最もクールなファッションのあり方ではないでしょうか。
野村訓市とノースフェイスが作る「旅」の正解。別注コートの魅力と着こなしを徹底解説
ここまで、野村訓市氏とTHE NORTH FACEが生み出した別注コートの魅力について語ってきました。
私たちが服に求めるものは、人それぞれです。見た目の格好良さ、ブランドの知名度、あるいは安さ。しかし、もしあなたが「これさえあれば、どこへでも行ける」という安心感を求めているのなら、このコラボレーションはまさに最適解となります。
最後に、このコートを最大限に楽しむためのポイントをまとめます。
- サイズは思い切って大きく: 中に何でも着込める余裕が、そのまま心の余裕に繋がります。
- メンテナンスを怠らない: グランジャーズなどの専用洗剤で定期的に洗うことで、ゴアテックスの撥水・透湿機能は長く維持できます。
- とにかく外へ出る: 部屋に飾っておく服ではありません。雨の日も風の日も、このコートを羽織って外の世界を「探究(EXPLORE)」してください。
野村訓市氏の哲学が宿ったこの一着は、あなたに新しい景色を見せてくれるはずです。旅の準備は整いましたか?
次に狙うべきは、このコートに合わせるトラベルバッグかもしれません。あるいは、彼の音楽体験を追体験するためのヘッドホンでしょうか。
あなたの旅が、この一着とともに素晴らしいものになることを願っています。

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