「パタゴニアで買い物をする」と聞いて、あなたは何を思い浮かべますか?
おそらく、多くの方が高機能なフリースやレインウェア、あるいは環境保護に熱心なアウトドアブランドというイメージを持つはずです。しかし今、感度の高いファンの間で密かに、そして熱狂的に支持されているアイテムがあります。
それが、パタゴニアがプロデュースする「日本酒」です。
「えっ、パタゴニアが酒?」「アパレルブランドの企画モノでしょ?」と驚く方も多いかもしれません。しかし、その中身は驚くほど硬派で、日本の伝統的な酒造りの概念を覆すほどの情熱が注がれています。
今回は、なぜパタゴニアが日本酒を手掛けるのか、その背景にある物語と、提携する二つの名門酒蔵との深い絆、そして気になるその「味」の正体について徹底的に掘り下げていきます。
なぜパタゴニアが「食品」に本気なのか
パタゴニアの食品コレクション「パタゴニア プロビジョンズ」をご存知でしょうか。
創業者のイヴォン・シュイナードは、「我々が本気で地球を守りたいのなら、それを始めるのは食べ物だ」と断言しています。服を買い替えるのは数年に一度ですが、食事は1日3回、誰もが行う営みだからです。
現代の農業は、効率を追い求めるあまりに化学肥料や農薬を多用し、土壌を疲弊させてきました。パタゴニアが目指すのは、単なるオーガニックではありません。土壌を修復し、大気中の炭素を地面に閉じ込める「リジェネラティブ・オーガニック(環境再生型農業)」の普及です。
日本において、この「土を育てる農業」を象徴する存在こそが、古来より続く「水田」でした。水田を守ることは、生物多様性を守り、日本の美しい風景と文化を守ることに直結します。そのメッセージを伝えるための最高のメディアとして選ばれたのが、お米から作られる「日本酒」だったのです。
千葉・寺田本家との出会いが生んだ「繁土(ハンド)」
パタゴニアが日本酒プロジェクトを始動させるにあたり、最初に出会ったのが千葉県神崎町にある「寺田本家」です。
寺田本家は、創業350年を超える老舗でありながら、現代の酒造りとは真逆を行く「自然酒」の旗手として知られています。彼らの酒造りは、以下の徹底したこだわりに基づいています。
- 原料は無農薬・無化学肥料の栽培米のみ
- 一切の添加物(醸造アルコール、酵素剤、乳酸など)を使用しない
- 蔵に住み着く天然の微生物の力だけで発酵させる
こうして誕生したのがパタゴニア 繁土です。
「繁土(ハンド)」という名前には、土が繁り、生命が循環するという願いが込められています。その味わいは、私たちが知っている透明でスッキリした日本酒とは全く異なります。精米歩合をあえて抑え、お米の表面にある栄養分を残しているため、色は黄金色に輝き、複雑で力強い旨味が口の中に広がります。
一口飲めば、「これがお米の本来の力なのか」と圧倒されるはずです。まるで熟成した白ワインやシェリー酒のような深みがあり、肉料理やスパイスの効いた料理にも負けない存在感を放っています。
福島・仁井田本家と歩む再生の道「やまもり」
寺田本家に続き、パタゴニアがパートナーに選んだのが、福島県郡山市の「仁井田本家」です。
1711年創業の歴史を持つこの蔵は、東日本大震災という困難を乗り越え、「自給自足の酒造り」を掲げています。彼らがパタゴニアと共に作り上げたのがパタゴニア やまもりです。
この「やまもり」という酒には、大きなトピックがあります。それは、日本初の「リジェネラティブ・オーガニック(RO)認証」を取得した日本酒であるということです。
RO認証とは、土壌の健康、動物福祉、そして働く人の公平性を守る、世界で最も厳しいとされる農業基準の一つです。仁井田本家は、自社田での米作りを通じて、単に環境を壊さないだけでなく、農地をより豊かな状態に戻す努力を続けてきました。
「やまもり」の味わいは、寺田本家の野性味溢れるスタイルとはまた異なり、凛とした透明感と、後味に抜ける清々しい酸が特徴です。福島の豊かな山々が育んだ水の清らかさと、力強い土壌が育てたお米の生命力が、見事なバランスで共存しています。
伝統的な「木桶仕込み」がもたらす魔法
パタゴニアの日本酒を語る上で欠かせないのが、古くて新しい技術「木桶(きおけ)」の使用です。
かつて日本の酒造りはすべて木桶で行われていましたが、管理のしやすさから現代ではステンレス製タンクが主流になりました。しかし、パタゴニアと提携する蔵元たちは、あえて木桶に戻っています。
木桶の表面には、その蔵独自の微生物が無数に住み着いています。この目に見えない「住人」たちが、ステンレスでは決して出せない複雑な味の層を作り出すのです。
また、木桶を作る職人が減少しているという課題に対しても、パタゴニアは警鐘を鳴らしています。木桶を使う酒を私たちが選ぶことは、日本の伝統工芸や職人の技術を次世代に繋ぐことにもなるのです。
アウトドアでこそ楽しみたい、新しい日本酒のスタイル
「日本酒は繊細だから、キャンプに持っていくのはちょっと……」
そう思っている方にこそ、パタゴニアの日本酒を試してほしいのです。彼らが提案するのは、格式張った飲み方ではなく、自然の中で自由に楽しむスタイルです。
例えば、キャンプの夜、焚き火の煙の香りと、寺田本家の力強いお酒のニュアンスは驚くほどマッチします。少し無骨なパタゴニア カップに注いで、ぬる燗に温めながら飲む時間は、至福のひとときです。
また、これらの日本酒は時間が経つことによる変化も「個性」として楽しめます。開栓した直後と、数日経って空気に触れた後では、驚くほど表情が変わります。急いで飲み切る必要はなく、旅のお供としてゆっくりと向き合うことができるのも、自然酒ならではの魅力です。
パタゴニアの日本酒が私たちに問いかけること
パタゴニアが服ではなく「日本酒」を売る。そこには、単なるビジネスの多角化ではない、切実なメッセージが込められています。
私たちが一本の日本酒を選ぶとき、その基準は何でしょうか。価格、ブランド、それとも味の評価でしょうか。
パタゴニアはそこに「そのお酒が作られることで、土壌は豊かになったか?」という新しい視点を持ち込みました。美味しいお酒を飲むという個人的な喜びが、巡り巡って日本の水田を守り、美しい地球を未来に残す力になる。これほどクリエイティブで、やりがいのある消費は他にありません。
もしあなたが、次に飲む一本に迷っているなら、ぜひパタゴニアが認めた蔵元の酒を手に取ってみてください。
パタゴニアの日本酒が話題!なぜ服屋が酒を?寺田本家・仁井田本家との絆と味の正体
最後になりますが、パタゴニアの日本酒は決して「流行りもの」ではありません。
千葉の寺田本家が守り抜いてきた「菌との共生」、そして福島の仁井田本家が挑む「土の再生」。それらの物語をパタゴニアが世界に発信することで、日本の伝統文化は新しい息吹を得ました。
ラベルの裏側に隠された、農家や蔵人の汗、そして微生物たちの働きを想像しながら飲む一杯は、これまでのどんなお酒よりも深い味わいがするはずです。
もし、この記事を読んでパタゴニアの思想に興味を持ったなら、ぜひ一度パタゴニアの直営店やオンラインショップを覗いてみてください。そこには、パタゴニア プロビジョンズの食品たちが、あなたの食卓と地球の未来を変える準備をして待っています。
美味しいお酒を飲む。ただそれだけのことが、地球を救う第一歩になる。そんな素敵な体験を、あなたも始めてみませんか?

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