「パタゴニア(Patagonia)」と聞くと、あなたは何を思い浮かべますか?おしゃれなフリース、機能的なアウトドアウェア、あるいは環境に優しいブランドというイメージでしょうか。
しかし、この世界的に有名なブランドが、かつて自社の看板商品を指して**「これを買わないでください」**と新聞広告を出したことがあるのをご存知ですか?
普通、企業は1つでも多く自社製品を売りたいはず。それなのに、なぜパタゴニアは「買うな」と言ったのか。そこには、単なる逆説的なマーケティングを超えた、私たちの消費行動を根底から揺るがす衝撃の理由が隠されていました。
今回は、パタゴニアの伝説的な広告の背景と、私たちが今このブランドを選ぶ本当の意味について深く掘り下げていきます。
全米が驚愕した「Don’t Buy This Jacket」広告の正体
2011年、アメリカで一年最大の大売り出しが行われる「ブラックフライデー」の当日。ニューヨーク・タイムズ紙に、ある衝撃的な全面広告が掲載されました。
そこには、パタゴニアの象徴ともいえるパタゴニア R2ジャケットの写真とともに、大きくこう書かれていたのです。
「DON’T BUY THIS JACKET(このジャケットを買わないでください)」
世界中の消費者がショッピングモールに押し寄せ、我先にと商品を買い漁るその日に、パタゴニアは真っ向から「買うな」と主張しました。これは一見、消費者の目を引くための巧妙なキャッチコピーに見えるかもしれません。しかし、その下に綴られた文章は、極めて真摯で、なおかつ厳しい現実を突きつけるものでした。
パタゴニアは、このジャケットを1着作るためにどれだけの代償を払っているかを数値で公開したのです。
- 水135リットル: 30人近くの人々が1日に必要とする水の量
- 20ポンド(約9kg)のCO2: ジャケットの重量の24倍もの温室効果ガス
- 製品重量の3分の2に相当する廃棄物: 製造工程で生まれるゴミ
「どれだけ環境に配慮して作っても、新しい製品を作ることは地球から資源を奪い、汚染を広げることである」という事実を、メーカー自らが認めたのです。この広告の真意は、売名ではありません。**「本当に必要でないなら、買わないでほしい。そして、今持っているものを大切に使い続けてほしい」**という、究極のサステナビリティへの呼びかけでした。
矛盾の中で戦うパタゴニアの哲学
「環境を守りたいなら、そもそも服を作るのをやめればいいじゃないか」という声も聞こえてきそうです。確かに、それは一理あります。しかし、パタゴニアの創業者であるイヴォン・シュイナードは、ビジネスを「環境危機を解決するための道具」として捉えました。
彼らが掲げるミッションは、**「私たちは、故郷である地球を救うためにビジネスを営む」**という非常に明確なものです。
パタゴニアが「買わないでください」と言い続けるのは、消費そのものを否定しているわけではありません。私たちが陥っている「安いから買う」「流行だから買う」「古くなったから捨てる」という、使い捨てのサイクルを断ち切りたいと考えているのです。
彼らが目指すのは、**「高品質なものを1つ持ち、それを一生かけて使い倒す」**という文化の再構築です。だからこそ、パタゴニアの製品は驚くほど丈夫に作られています。例えば、過酷な山岳地帯でも耐えうるパタゴニア トレントシェル3Lのような製品は、何年も、時には何十年も愛用することを前提に設計されています。
壊れたら直す「Worn Wear」という選択肢
「買わないでください」というメッセージの裏側には、パタゴニアによる強力なバックアップ体制があります。それが、修理プログラム「Worn Wear(ウォーン・ウェア)」です。
「新品よりもずっといい」というスローガンのもと、パタゴニアは世界各地にリペアセンターを設けています。ジッパーが壊れた、枝に引っ掛けて穴が開いた、裏地が剥離した。そんな時、多くのブランドは買い替えを勧めますが、パタゴニアは「修理してまた使いましょう」と提案します。
特筆すべきは、その修理に対する情熱です。
パタゴニアの修理部門は、北米最大規模のアパレル修理施設を持っています。日本国内でも、鎌倉などのリペアセンターで熟練のスタッフが日々ウェアを修復しています。
また、修理だけでなく「再利用」にも積極的です。
- 買取と再販: 不要になったパタゴニア製品を買い取り、クリーニングや修理を施して中古品として再販する。
- リサイクル: どうしても修理できないほどボロボロになった製品は、回収して新しい繊維へとリサイクルする。
私たちがパタゴニア フリースを手にするということは、単に服を買うだけでなく、こうした「一生モノを支えるインフラ」へのアクセス権を得ることでもあるのです。
1% for the Planet:地球への家賃
パタゴニアの凄みは、言葉だけでなく「お金の流れ」にも現れています。
彼らは1985年から、売上の1%(利益ではなく売上です)を環境保護団体に寄付し続けています。これを彼らは「地球への税金」あるいは「ビジネスを営む上での家賃」と呼んでいます。
たとえ赤字の年であっても、この寄付を止めることはありません。これまでに1億4,000万ドル以上の寄付を行っており、その資金は地域の草の根活動や、気候変動対策、生物多様性の保護に使われてきました。
さらに、2022年には創業者のシュイナード一家が、会社の所有権をすべて環境保護のための信託と非営利団体に譲渡するという衝撃的な発表を行いました。「今や地球が、私たちの唯一の株主です」という彼の言葉は、資本主義の常識を覆すものでした。
私たちがパタゴニア Tシャツを1枚買うとき、その代金の一部は確実に地球を守るための活動に充てられる。この透明性の高さこそが、世界中に熱狂的なファンを生む理由となっています。
パタゴニア製品を選ぶ前に考えるべきこと
さて、ここまで読んで「やっぱりパタゴニアって素晴らしいな、何か買おうかな」と思ったあなた。ここで一度、パタゴニアの広告メッセージを思い出してください。
「本当に、それが必要ですか?」
もし、今持っているジャケットがまだ使えるのなら、それを修理して着続けることが、パタゴニアが最も望んでいることです。あるいは、中古市場でパタゴニア ダウンを探すのも素晴らしい選択です。
パタゴニアの製品は、決して安くはありません。むしろ、高価な部類に入ります。しかし、その価格には以下の価値が含まれています。
- 耐久性: 長年使える頑丈な設計
- 修理体制: 壊れても見捨てられない安心感
- 環境負荷の低減: オーガニックコットンやリサイクルポリエステルの使用
- 公正な労働環境: 製造に関わる人々の権利を守るフェアトレード
「安物を毎年買い換える10年」と「パタゴニアを1着修理しながら着続ける10年」。どちらが豊かで、地球にとって優しいでしょうか。パタゴニアを買うなら、ぜひ「一生の相棒」を探すつもりで選んでみてください。
結局、パタゴニアは「買い」なのか?
結論から言えば、パタゴニアは間違いなく「買い」なブランドです。ただし、それは「消費」のためではなく「投資」としてです。
機能面で見ても、パタゴニアの製品は一流です。例えば、冬の定番であるパタゴニア レトロXは、防風性に優れ、キャンプからタウンユースまで幅広く活躍します。こうした定番品は流行に左右されないデザインのため、10年後に着ていても全く古臭さを感じさせません。
また、パタゴニアは「不完全さ」を隠しません。「自分たちも環境を汚染している」と公言し、それを少しでも減らそうともがいています。この誠実な姿勢こそが、現代の私たちが必要としている「信頼」の形ではないでしょうか。
広告で「買わないでください」と言われたからこそ、私たちは自分自身の消費に対して責任を持つようになります。何を選び、どう使うか。その選択の一つひとつが、未来の地球を作っているのです。
パタゴニアを「買わないでください」の真意とは?伝説の広告に隠された衝撃の理由:まとめ
パタゴニアが発信した「買わないでください」というメッセージは、単なる広告の枠を超えた、生き方への問いかけでした。
- 大量消費への警鐘: 1着の製造にかかる膨大な環境コストを自ら暴露。
- 長く使う美学: 壊れたら直す「Worn Wear」プログラムの推進。
- ビジネスの再定義: 地球を唯一の株主とし、利益を環境保護へ。
もしあなたが次にパタゴニア バッグやウェアを手に取るなら、それが本当に必要かどうか、自分自身に問いかけてみてください。そして、「これだ」と思う一着に出会えたなら、それをボロボロになるまで使い込んでください。
パタゴニアというブランドは、あなたがその一着を愛し抜くためのすべてを準備して待っています。本当の意味で「良いもの」を長く使う贅沢を、ぜひパタゴニアとともに体験してみてください。
次にあなたが「買わない」選択をしたとき、あるいは「これなら一生使える」と確信して買ったとき、パタゴニアの伝説的な広告の真意が、より深く体に染み渡るはずです。

コメント