「パタゴニアの服を着ているけれど、胸にロゴがないモデルを見かけた」「古着屋でとんでもない価格がついているミリタリー風のパタゴニアがある」
そんな経験はありませんか?実はそれ、パタゴニアが米軍特殊部隊のためだけに開発した究極のレイヤリングシステム、通称「MARS(マーズ)」かもしれません。
一般のカタログには一切載らず、限られた兵士だけが手にすることを許された伝説のライン。今回は、アウトドアファンの憧れであり、ヴィンテージ市場で神格化されているパタゴニア ミリタリー ラインの魅力を、その歴史から真贋の見分け方まで徹底的に掘り下げていきます。
そもそも「MARS」とは何なのか?
パタゴニア ミリタリー ラインを語る上で欠かせないキーワードが「MARS」です。これは「Military Advanced Regulator System」の略称で、2000年代初頭にアメリカ軍特殊作戦軍(USSOCOM)からの要請を受けて開発されました。
パタゴニアといえば、環境保護や登山ウェアのイメージが強いですよね。しかし、その卓越したレイヤリング(重ね着)技術と素材開発力は、軍にとっても喉から手が出るほど欲しいものでした。極寒の雪山から灼熱の砂漠まで、過酷な任務に従事する兵士の体温を一定に保ち、パフォーマンスを最大化させる。そのためにパタゴニアの登山技術が軍事転用されたのです。
このラインの最大の特徴は、徹底した「実用主義」にあります。敵から発見されるリスクを最小限にするため、おなじみのフィッツロイロゴ(山のマーク)は表面から完全に消し去られました。カラー展開も、自然界に溶け込む「アルファグリーン」と呼ばれる独特のセージグリーンが中心。まさに、プロ中のプロのための道具なのです。
レイヤリングシステム(PCU)の構造を知る
パタゴニア ミリタリー ラインは、単なる単品の服ではなく、システムとして設計されています。これは「PCU(Protective Combat Uniform)」という思想に基づき、Level 1からLevel 7までの階層に分かれています。
基礎を支えるベースレイヤー(Level 1 & 2)
肌に直接触れるベースレイヤーは、汗を素早く吸い上げ、外へ逃がす役割を担います。Level 1はシルクのように薄いアンダーウェア。Level 2は、パタゴニアの名作パタゴニア R1にも採用されているグリッド状のフリース生地が使われています。これによって、保温性と通気性という相反する機能を高い次元で両立させているのです。
保温の要、フリース(Level 3)
MARSの中でも特に高い人気を誇るのがLevel 3です。ベースとなっているのは、毛足の長いフリース素材で知られるパタゴニア R2。ミリタリー仕様では、摩耗しやすい肩や肘が補強されており、よりタフな作りになっています。街着としても非常に使いやすく、そのモコモコとした質感と無骨なシルエットのギャップに魅了されるファンが後を絶ちません。
風を遮るシェル(Level 4, 5, 6)
外気から身を守るための層です。Level 4は超軽量なウインドシャツ。Level 5は、MARSの象徴とも言えるソフトシェルジャケット。そしてLevel 6は、悪天候に対応するゴアテックス等のハードシェルです。特にLevel 5は、伸縮性と撥水性に優れ、現代のテックウェアの先駆けとも言える完成度を誇ります。
最強の防寒着(Level 7)
「モンスターパーカー」や「ダスパーカ」の流れを汲むのが、このLevel 7です。極寒地での待機や活動を想定し、中綿にはダウンを凌ぐ保温性を持つと言われる化繊素材が詰め込まれています。ボリューム感のあるシルエットは、現在のオーバーサイズトレンドとも相性抜群。これ一着あれば、日本の冬で凍えることはまずないでしょう。
なぜこれほどまでに希少価値が高いのか
パタゴニア ミリタリー ラインが古着市場で高騰している理由は、単純に「手に入らないから」です。
通常、パタゴニアの製品は直営店や正規代理店で購入できます。しかし、MARSは軍の予算で買い上げられ、兵士に直接支給される「官給品」です。一般販売は一切行われませんでした。現在市場に出回っているのは、任務を終えた兵士が放出したものや、デッドストックとして保管されていたごく一部の個体のみです。
また、パタゴニア自体が現在は軍への直接供給を積極的に行っていないことも、希少性に拍車をかけています。「過去にわずかな期間だけ存在した、パタゴニア製の軍服」というストーリーが、コレクターたちの心を掴んで離さないのです。
失敗しないための「本物」の見分け方
非常に高価なアイテムだからこそ、偽物や模造品には注意が必要です。パタゴニア ミリタリー ラインを見分けるための決定的なポイントを整理しました。
まず確認すべきは、内側のタグにある「STYLE番号」です。MARS製品の場合、この番号が必ず「19000番台」から始まります。例えば、通常のパタゴニア フリースとは異なる「19032」といった数字が並んでいれば、それはミリタリーラインである証拠の一つです。
次に「製造国」です。アメリカ軍の規定(ベリー修正条項)により、軍に納入される衣類は原則としてアメリカ国内で製造されなければなりません。そのため、タグには「MADE IN USA」の表記があるのが一般的です。パタゴニアの通常製品の多くがアジア圏での製造に移行した時期でも、MARSは一貫して米国製を維持していました。
そして「ロゴの有無」と「カラー」です。前述の通り、表面にロゴパッチはありません。ロゴは襟元の内側や、品質表示タグにひっそりと隠されています。色は「アルファグリーン」と呼ばれる、グレーとグリーンを混ぜたような絶妙な中間色であることが多いです。もし真っ黒や鮮やかな青色で「MARS」を名乗っているものがあれば、それはカスタム品か、極めて珍しい特注品の可能性があります。
現代のファッションにどう取り入れるか
パタゴニア ミリタリー ラインの魅力は、そのスペックだけではありません。現代のファッション、特にストリートやテックウェアスタイルとの相性が抜群に良いのです。
例えば、Level 3のフリースジャケット。これをリーバイス 501のようなクラシックなデニムに合わせるだけで、洗練されたアメカジスタイルが完成します。ロゴがないことで、「いかにもアウトドア」な雰囲気が消え、より都会的でミニマルな印象を与えてくれます。
また、Level 7のようなボリュームのあるアウターは、あえて細身のパンツと合わせることで、シルエットにメリハリをつけることができます。足元にはニューバランス 990などのボリュームのあるスニーカーを合わせれば、今っぽいシティボーイ風の着こなしになります。
機能性が高いため、冬場の自転車通勤やキャンプなど、アクティブなシーンでもストレスなく着用できるのが嬉しいポイントです。本物の軍仕様だからこそ、少々ラフに扱ってもへこたれないタフさがあります。
投資としてのパタゴニア ミリタリー ライン
古着の世界では、良いモノは年々減り、価格は上がり続けます。パタゴニア ミリタリー ラインもその例外ではありません。
数年前まで数万円で買えたモデルが、今では10万円を超えるケースも珍しくありません。これは単なるブームではなく、文化遺産としての価値が認められ始めているからです。「一生モノ」として購入し、大切に着続けたとしても、将来的に価値が落ちにくい。むしろ上がる可能性がある。そう考えると、高価な買い物も一つの投資と言えるかもしれません。
ただし、状態の良い個体は本当に少なくなっています。ジッパーの破損や生地の劣化がないか、慎重に見極める目が必要です。信頼できるヴィンテージショップで見つけた際は、一期一会の出会いだと割り切って手に入れる勇気も必要でしょう。
パタゴニア ミリタリー ラインという究極の選択肢
パタゴニアというブランドが持つ「誠実なモノづくり」と、軍という「極限の現場」が交差して生まれたMARS。それは、私たちが日常で手に入れることができる衣類の中で、最もストイックで、最もロマンに溢れた存在と言えるでしょう。
過酷な環境で兵士の命を守るために設計されたディテールは、街中での生活をより快適に、そしてより豊かに変えてくれます。派手なロゴで主張せず、そのシルエットと素材感だけで「本物」であることを証明する。その奥ゆかしさこそが、多くの人を惹きつけてやまない理由なのです。
もしあなたが、人とは違う一着を探しているなら。あるいは、機能美の極致を体感したいなら。パタゴニア ミリタリー ラインの扉を叩いてみてはいかがでしょうか。その圧倒的な存在感に、きっと魅了されるはずです。

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