「パタゴニア」と聞いて、あなたは何を思い浮かべますか?
多くの方は、あの有名な山脈のロゴが入ったアウトドアブランドを想像するかもしれません。でも、実はパタゴニアというのは特定の「国」の名前ではないんです。南米大陸の南端に広がる、地球上で最も美しく、そして厳しい自然が残る「地域の名前」なんですね。
「一生に一度は行ってみたいけれど、実際どこにあるの?」「チリとアルゼンチン、どっちに行けばいいの?」そんな疑問を抱えている方のために、パタゴニアの基本から旅のコツまで、その魅力を余すことなくお伝えします。
パタゴニアは独立した国ではなく「地域」の総称
まず最初にスッキリさせておきたいのが、「パタゴニアという国は存在しない」ということです。パタゴニアは、南米大陸の南緯40度付近を流れるコロラド川から南のエリア全体を指す言葉です。
この広大な土地は、アンデス山脈を境界線にして「アルゼンチン」と「チリ」の2つの国にまたがっています。面積は約110万平方キロメートル。と言ってもピンとこないかもしれませんが、なんと日本の約3倍もの広さがあるんです。
この地名は、1520年に航海者マゼランがこの地に降り立った際、先住民が履いていた大きな毛皮の靴を見て「パタゴン(大きな足の人)」と呼んだことが由来だと言われています。巨人伝説が生まれるほど、当時のヨーロッパ人にとってパタゴニアは未知で、力強いエネルギーに満ちた場所だったのでしょう。
ちなみに、世界的な人気を誇るアウトドアブランドのパタゴニアも、創設者がこの地の険しい山々に魅了されて名付けたものです。ロゴに描かれているギザギザの山影は、パタゴニアを象徴する名峰「フィッツ・ロイ」がモデルになっているんですよ。
アルゼンチン側パタゴニア:氷河と巨峰のダイナミズム
パタゴニアの東側に位置するアルゼンチン側は、見渡す限りの大平原「パンパ」と、天を突くような鋭い岩山が特徴です。
動き続ける青い壁「ペリト・モレノ氷河」
アルゼンチン側の観光拠点となる街、エル・カラファテからアクセスできるのが、世界遺産「ロス・グラシアレス国立公園」です。ここでのハイライトは何と言ってもペリト・モレノ氷河でしょう。
全長約30キロメートル、高さ約60メートルにも及ぶ巨大な氷の壁は、今もなお成長と崩壊を繰り返す「生きている氷河」です。展望台に立っていると、静寂の中に「バリバリッ!」という雷のような轟音が響き渡ります。これは氷河が自重で崩れる音。運が良ければ、ビルのような氷の塊が湖面に崩れ落ちる、圧倒的な光景を目の当たりにできるかもしれません。
より近くで体感したいなら、アイゼンを履いて氷の上を歩く「氷河トレッキング」もおすすめです。足元に広がるクリスタルブルーの亀裂(クレバス)は、吸い込まれそうなほど美しく、自然の造形美に言葉を失います。
登山家の聖地「フィッツ・ロイ」
エル・カラファテからバスで約3時間の場所にあるエル・チャルテンは、トレッキングの拠点として知られる小さな村です。ここから仰ぎ見る「フィッツ・ロイ」は、パタゴニアで最もフォトジェニックな山と言っても過言ではありません。
朝焼けに染まる真っ赤なフィッツ・ロイを見るために、暗いうちから山道を歩くハイカーも少なくありません。ブランドロゴそのままの荒々しいシルエットが黄金色に輝く瞬間は、まさに神々しいの一言。アルゼンチン側は比較的道が整備されているコースが多く、初心者からベテランまでそれぞれのレベルで絶景を楽しめるのが魅力です。
チリ側パタゴニア:フィヨルドと森の神秘
一方、アンデス山脈の西側に位置するチリ側は、複雑に入り組んだ海岸線(フィヨルド)と、深い森、そして点在するエメラルドグリーンの湖が特徴です。
世界一美しい国立公園「トーレス・デル・パイネ」
チリ側パタゴニアの至宝といえば、プエルト・ナタレスを拠点に訪れる「トーレス・デル・パイネ国立公園」です。ここは、ナショナル・ジオグラフィック誌で「世界で最も美しい場所」の一つに選ばれたこともある、まさに絶景のデパート。
この公園のシンボルは、垂直に切り立つ3本の巨大な花崗岩の塔「トーレス(塔)」。その足元には氷河が溶け出したミルクブルーの湖が広がり、現実離れした色彩を見せてくれます。
本格的な冒険を求めるなら、公園内を数日間かけて歩く「Wトレッキング」が有名です。山小屋やキャンプサイトに泊まりながら、グレイ氷河、フランス谷、そしてトーレスのベースキャンプを巡るこのコースは、世界中のバックパッカーの憧れとなっています。
グアナコやコンドルとの出会い
チリ側のパタゴニアは野生動物の宝庫でもあります。トレッキング中に、ラマの仲間である「グアナコ」の群れに遭遇することは日常茶飯事。また、空を見上げれば、翼を広げると3メートルにもなる巨大なアンデスコンドルが優雅に舞っています。手付かずの自然の中に、動物たちが当たり前のように息づいている。そんな「地球の鼓動」を肌で感じられるのがチリ側の醍醐味です。
知っておきたい!パタゴニア旅行のリアルな知恵
パタゴニアは素晴らしい場所ですが、南米の最果て。行く前にはいくつか覚えておくべきポイントがあります。
「1日に四季がある」気象条件
パタゴニアを語る上で欠かせないのが、強烈な「風」です。特に夏の時期は、吹き飛ばされそうなほどの暴風が吹き荒れることがあります。
天気は非常に変わりやすく、さっきまで快晴だったのに急に大雨が降り、数分後には虹が出るといったことも珍しくありません。「1日に四季がある」と言われるほどなので、どんな天候にも対応できる準備が必要です。
服装の基本はレイヤリング(重ね着)です。レインウェアやソフトシェルジャケットなど、防風・防水機能に優れたアイテムは必須。綿製品は濡れると乾きにくく体温を奪うので、速乾性のある素材を選びましょう。
ベストシーズンはいつ?
パタゴニアの観光シーズンは、南半球の夏にあたる11月から3月です。この時期は日が長く、夜の21時過ぎまで明るいため、たっぷり活動できます。
逆に冬(6月〜8月)は多くのホテルやバスが営業を停止し、トレッキングコースも雪に閉ざされます。極寒と静寂の世界を好むプロフェッショナル以外には、あまりおすすめできません。
通貨と物価の事情
アルゼンチンとチリ、2つの国をまたぐ場合はそれぞれの通貨(ペソ)が必要です。
- アルゼンチン:経済状況によりインフレが激しいため、現金の価値が日々変動することがあります。クレジットカードも普及していますが、少額の支払いやチップ用に現金も持っておくと安心です。
- チリ:アルゼンチンに比べると経済は安定していますが、パタゴニア地方は輸送コストがかかるため、首都サンティアゴに比べても物価は高めです。
最近ではどちらの国でもクレジットカードが広く使えますが、通信状況によっては決済できないこともあるため、予備の現金(米ドルも便利)を持っておくのがスマートな旅のコツです。
2つの国を繋ぐ「国境越え」の冒険
せっかくパタゴニアまで行くなら、アルゼンチンとチリの両方を欲張りに楽しみたいですよね。実は、エル・カラファテ(アルゼンチン)とプエルト・ナタレス(チリ)の間は、国際長距離バスで約5〜6時間で移動できるんです。
ただし、注意が必要なのが「検疫」です。特にチリ側の入国審査は非常に厳しく、生の果物、野菜、肉製品、ナッツ類などは一切持ち込めません。うっかりカバンの中に食べ残しのリンゴが入っていただけで、高額な罰金を取られることもあるので要注意。バスを降りる前に、手荷物をしっかりチェックしておきましょう。
国境を越えるたびにパスポートにスタンプが増えていく感覚は、まさに「旅をしている」という実感を高めてくれます。
パタゴニアはどこの国?チリとアルゼンチンに跨る絶景の魅力と観光ガイド完全版:まとめ
パタゴニアは、アルゼンチンとチリという2つの国が大切に守り続けてきた、人類共通の財産とも言える場所です。
轟音を立てて崩れる青い氷河、雲を突き抜ける鋭い岩峰、そしてそこに生きる野生動物たち。ネットや写真で見る絶景も素晴らしいですが、現地で吹く風の冷たさや、氷河が溶ける音、そして自分の足で一歩ずつ登り詰めた先に広がる景色は、何物にも代えがたい感動を与えてくれます。
日本からは飛行機を乗り継いで30時間以上かかる、まさに「世界の果て」。でも、その長い旅路の末に待っているのは、あなたの人生観を少しだけ変えてしまうほどの圧倒的な自然です。
「パタゴニアはどこの国?」という疑問の答えは、チリとアルゼンチンの両方にあり、そしてそのどちらもが、想像を超える感動を約束してくれます。次の長期休みは、バックパックを背負って、南米最果ての聖地を目指してみませんか?

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